一つには水仕事をする時にいちいち外さなければならないこと、二つには龍頭の跡が手首に残ることから、若い頃から腕時計が苦手で、30代の頃から腕時計をしたことがない。
とはいえ、時間をまったく気にしないわけにもいかず、列車の運転士になったような気分を味わえる、携帯電話を持つようになるまでの間使っていた、懐中時計の出番となった。

定年退職した職場はデスクワークがメインだったので、事務所の時計とパソコンの右下の時刻を見ていれば事足りたが、今の職場は教育支援施設なので授業の時間割があり、教室を出て校庭や校外に出かけることもある。
スマホを見ればいいようなものだが、農作業や調理実習の最中に、精密機械を触るのはやや抵抗があり、常時持ち歩く鍵にキーホルダーのように取り付ける懐中時計が大いに重宝していた。
黒い紐は
列車の運転士さんが
運転席を離れている間
懐中時計の紐をベルトに通し
ポケットに懐中時計を入れる紐

黒い紐から外し
常時持ち歩く鍵に付けていた

取扱いが乱雑なため
懐中時計の龍頭の上の
リングが外れて行方不明に

懐中時計を購入した店やいくつかの時計店を回ったが、部品は取り寄せになるが、おそらくメーカーにも部品はもうないだろう、とのこと。
どうしても修理をしたければ、かなり割高になるが、外側の躯体をそっくり入れ替えることになる、そしてその修理代金は新品の懐中時計を買うぐらいになると聞き、年金生活者の財布にはいささか厳しい。

ホームセンターのボルトやリングの売り場を見ても、どうも思い描いていたパーツが見当たらない。
もはやこれまでと諦めかけた時、たまたま通りかかった、いかにも「モノづくり」好きと思しき若い男性スタッフが通りかかった。
「当店に今置いているリングはWリングなので、元から付いていたシングルの、挟むようなリングがありません。なんとかして、小さいWリングを龍頭の下のくびれに嵌め込めさえできたら、もう一つリングを連結することはできそうですね」
と、アドバイスをくれた。
小さいWリングは
なかなか龍頭の下の
くびれには入らない
ペンチでグイッと
広げる必要があるが
元通りにはならない

龍頭の下に
小さいWリングを嵌めて
別のリングでカラビナに連結

小さいWリングを
無理くり龍頭の下に嵌め込み

少し大きめの
Wリングを連結

似て非なるものとはいえ
これでしばらくは
「のきゃすまい」(=外れないだろう)

なかなか良(え)いですやいか

近頃の物価高は、ジワジワとボディーブローのように効いてくる。
退職された先輩たちが、「年金生活はズルうない(=大変だ)」とよく言っていたが、我が身に振りかかって初めてよくわかる。
さほど高くない廉価版の懐中時計だが、現役の頃のように「壊れたから買い替えよう」には到底ならない。